「42nd Street」的なミュージカルの組み立て方

1980年にブロードウェイで大ヒットした作品の一つに「42nd Street」があります。2001年にリバイバル上演もされ、日本でも東宝が舞台化して元宝塚の涼風真世が主演しました。
 それまでブロードウェイのステージでヒットした作品をのちに映画化するというパターンが一般的でしたが、この「42nd Street」は1933年の映画を舞台化した作品で、以後、ムービーミュージカルの舞台化というパターンが定着していきました。今回はそのアダプテーションの仕方について注目していきましょう。

 1933年に大ヒットしたミュージカル映画「42nd Street」は、田舎からブロードウェイに来たペギー・ソーヤがコーラスガールから、主演スターの代役を見事にこなすまでのストーリーで、プロデューサーの苦悩やショーの出資者、コーラスダンサーたちの舞台裏が描かれています。映画がヒットした大きな要因は、バズビー・バークレーが創造したミュージカルナンバーで、舞台の設定でありながら、空間を超越した展開で映画でしか見られないような映像を作り上げました。「バークレー・ショット」と呼ばれる、ダンサーを回り舞台に並べ上から撮影した万華鏡のようなビジュアルは、その後も定番となっていきます。そしてワーナーブラザーズはこの作品以後、同じようなミュージカル作品を沢山制作していきました。

 さて、1980年の舞台化された作品とオリジナルの映画との違いは、まずミュージカルナンバーの数にあります。古いミュージカル映画の上映時間は90分前後。一方ステージミュージカルは1部、2部合わせて2時間半ぐらいが一般的で、映画版よりも1時間長い。映画では主に3つのミュージカルナンバーが見せ場になっていましたが、舞台では当然それだけでは足らない。よってミュージカルナンバーを増やす必要があり、バズビー・バークレーが創造した他の映画で、「42nd Street」と同じ作詞アル・デュービン、作曲ハリー・ウォーレンの曲を寄せ集めてくることになります。たとえば舞台版の「We’re in the money」「The Shadow Waltz」は映画「Gold Diggers of 1933」の為に書かれた曲、「I Only Have Eyes For You」 「Dames」 は1934年の 「Dames」から、「Lullaby of Broadway」は「Gold Diggers of 1935」、「Go Into Your Dance」は1935年の「Go Into Your Dance」から借りてきた次第であります。これによって、映画の為に書かれた一つのストーリーを基盤にして、同じ作曲者の他の作品からの曲を借りて2時間半の作品に仕上げるという「寄せ集めリメイクミュージカル」が誕生したわけです。1992年のヒットで劇団四季のレパートリーになっている「Crazy For You」は舞台から映画になった「Girl Crazy」のストーリーを元に、ジョージ・ガーシュインの他のミュージカルからの曲を詰め込んで作り変えた作品。日本でも上演された「Never Gonna Dance」はアステアの「有頂天時代」を基盤にジェローム・カーンの他の曲を付け足して作った作品、「雨に歌えば」や最近の「巴里のアメリカ人」も同じ作り方だといえる。オリジナルの映画で使われている曲でも、舞台版では設定を変えて使われていることもあります。映画板に馴染んでいる人が舞台版を見ると、付け足したナンバーに違和感を感じる事があり、また舞台版から映画版を見ると、物足りなさを感じたりします。ともあれ、映画で容易にできた展開をどう舞台で表現するか、そのアイディアやセンスを見出すのも、映画を舞台化したミュージカルを楽しむポイントなのかもしれません。

参考資料
舞台版「42nd Street」で使われた他の映画からのミュージカルナンバー

We’re In The Money (Gold Diggers of 1933)

The Shadow Waltz (Gold Diggers of 1933)

Lullaby of Broadway (Gold Diggers of 1935)

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