かつてのハリウッドミュージカルで人気のあったスターの代表格にジュディー・ガーランドがいる。ジュディーは「アメリカの美空ひばり」的な存在で、現在でも伝説的なスターとして崇められている。彼女の主演作品は今見ても十分素晴らしく、その歌の魅力を再認識するのであるが、「ダンサー」として評価されることはまずない。ダンスでスターダムにのし上がったベラ―エレンやシド・シャリースなどに比べると、たしかにテクニックはないかもしれないが、「歌手がちょっと頑張ってダンスに挑戦しました」というレベルではない。今回は「ダンサー」としてのジュディー・ガーランドに注目してみたいと思います。
ジュディー・ガーランドは生まれた時からヴォ―ドビルの世界で育っているので、何でもできるのはあたりまえかもしれないが、その歌唱力とカリスマ性からか、ダンサーとしての見せ場がある作品は多くはない。その中で1943年の「Presenting Lilly Mars」のフィナーレナンバー「Broadway Rhythm」で彼女のダンサーとしての力量を見ることができる。振付師でのちに「イースターパレード」を監督したチャック・ウォルタースはそのナンバーでジュディーのパートナーを務めている。彼の指導力も大きかったと察するが、ここでのジュディーは、それまでの軽いダンスナンバーとはちがい、魅力的なデュオを繰り広げている。
「Presenting Lily Mars」での「Broadway Rhythm」
またジーン・ケリーの映画デビュー作の「For Me And My Gal」(1942年)でジュディーはジーンとタイトルソングの「For Me and My Gal」でソフトシューナンバーをこなしている。「ソフトシュー」というダンススタイルはヴォ―ドビルでは定番で、昔のアメリカのエンターテイナーならできて当たり前的な芸の一つであった。これもヴォ―ドビル出身のジュディーにしてみればできて当然と思われるが、ジーンと楽しそうに踊っているジュディーはお見事である。同じ映画でもうひとつ、「Ballin’ The Jack」でも軽快にステップを踏んでいる。ジーンとは8年後の「Summer Stock」(1950年)でも共演していて、歌った後に踊るナンバーとは違う、完全にダンスで見せる場面がある。保守的な田舎の納屋でのダンスパーティで、都会から来たダンサーたちが見かねてスウィングしだすと、ジーンとジュディーもついのりまくってしまうという場面で、ジーンと対等に踊るジュディーにプロ根性がうかがえる。
「For Me And My Gal」でのソフトシューナンバー
「For Me And My Gal」での「Ballin`The Jack」
ダンスを売りにしているスターのパフォーマンスのような、度肝を抜くテクニックはないのだが、ジュディーのダンス場面はどれもぎこちなさはなく、一見サラッとやっているように踊っている。しかしそれがいかに難しいことか、ダンスをやっている人でないと理解できない部分かもしれない。天才的大スター、ジュディー・ガーランドの力量の素晴らしさを再認識すると同時に、ジュディーと共演して彼女を上手に踊らせたチャック・ウォルターズやジーン・ケリーの指導力も評価すべきだと思う。