スペシャリティーパフォーマーの魅力

1940年代から1950年代にかけてハリウッドでは実に多くのミュージカル映画が制作された。今でも名作として残る「雨に唄えば」「巴里のアメリカ人」などもあるが、実はもっと娯楽性を重視した軽いエンターテイメント作品が多かったのである。ストーリーは「Boy meets Girl」と言われる、いわゆる主人公の男と女が出会い、恋に落ち、誤解が生じるが、最後はハッピーエンドというパターンである。つまり物語りは重要ではなく、その中で見せる歌や踊りが売りであった。

 

家庭で気軽にヴァラエティー番組が見られるようになり、映画産業を脅かすようになる1950年代中頃前までは、映画が娯楽の王様であり、人々は毎週のように映画館に足を運んだ。つまり軽い内容のミュージカル映画がテレビの娯楽番組的な役割を担っていたと言える。

さて、主演スターの歌や踊りのミュージカルシーン以外に、有名な歌手、ダンサー、芸人などをゲスト出演させることがよくあった。

それらは「スペシャリティー(Speciality)」と呼ばれた。彼らは映画のストーリーに関係ないことが多かった。よくあるパターンは主人公がナイトクラブや劇場に行き、そこでショーを見ているという設定であった。

歌手でいうとリナ・ホーン(Lena Horne)が典型的なスペシャリティーであった。彼女はMGMと専属契約をかわし、多くのミュージカル映画にゲスト出演した。容姿端麗で歌のうまい彼女がゲスト出演していると、ちょっと得した気持ちにもなる。

リナ・ホーン Brazillian Boogie (Broadway Rhythm)MGM1943年

ダンサーではニコラス・ブラザーズが筆頭であった。歌とタップと度肝を抜くアクロバットで、その映画自体はつまらなくても、彼らの場面だけ見ごたえがあるといったことも多かった。しかし黒人パフォーマーをスペシャリティー扱いにするのは別の理由もあった。それは黒人差別が激しい南部などでそれらの作品を上映する時、彼らの場面はカットされたのである。物語にからんでいないので割愛するのに都合がよかったのである。

ニコラスブラザーズ I’ve got a gal in Kalamazoo(Orchestra Wives)Fox1942年

しかし重要なのは、それらの素晴らしいパフォーマンスがフィルムに残されたということである。そのおかげで半世紀前の歌や踊りがリストアされて鮮やかに蘇ってくる。時代を超えて再評価される当時のB級ミュージカル映画の真のスターは主役よりもスペシャリティーたちであったりする。

ロス・シスターズ Solid Potato Salad (Broadway Rhythm)MGM1943年

ベーリーブラザーズ (Panama Hattie)MGM1942年